誠実な生活

実家の隣に葬儀屋がある

日記(2/5)

人生で初めて, 餃子の王将という店に行きました. 餃子と, 鶏のから揚げと, 炒飯を注文しました. 美味しかったです. 

 

帰りに, とある古本屋にふらりと入りました. 基本的に新刊で買えるものは新刊で買うようにしていますが, 地元にいた頃は, 実家のほど近くにあるブックオフに入り浸っては, 毎月数十冊単位で漫画や小説を買いあさっていました. 

 

今日, その古本屋で漫画の棚をぼんやりと眺めていたところ, 懐かしい本を見つけました. それは, いわゆる百合漫画と呼ばれる類の, しかもなかなか重たいものでした. 

 

地元にいた頃, ブックオフでたった一度だけ立ち読みして, どうも自分には合わないなと思って買うことのなかった漫画でした. 久しぶりに見たそれを, 私は手に取って立ち読みを始めました. 

 

その内容はほとんど忘れていて, とりあえず最初の一話か二話を読み終わったとき, 私はすぐに店を出て, そこから横断歩道を渡ってすぐのところにある書店に入りました. 

 

その漫画は私が地元を出たのとほとんど同時期に完結していて, 全巻を買うとおよそ6000円の出費になりました. 

 

下宿に帰り, 私はそれを一気に読んでしまいました. 

 

本当によい漫画に出会ったと思いました. こんなによい漫画を, どうしてかつての私は合わないなと判断したのだろう……そんなことを, 夕食の買い出しに行ったスーパーで偶然会った友人に話しました. 

 

「このわずか数年の間に, 私の中で何が変わったのだろうね」

 

私の話をひととおり聞いてから, 友人は回顧しました. 

 

「君, 高校時代までは百合漫画なんかほとんど読んでいなかったじゃないか. 君と漫画の話をするとき, それは異性間の恋愛漫画ばかりだったよ」

 

「そういえば……」

 

思い返せば, かつての私は百合とまではいかなくても, 女の子たちが仲良く過ごすような作品にほとんど触れてきませんでした. 

 

きっかけは, 大学に入って間もない時期に観た, 「ゆるゆり」というアニメだったような気がします. 

 

その後, 「きんいろモザイク」だとか「ご注文はうさぎですか?」などのさっぱりとした作品に触れました. 

 

そして, 段階を経るように, 胃もたれするような重たい百合作品を読むようになりました. 

 

「君の嗜好に, かつては百合を受け入れる土壌がなかったんじゃないのか. そこに, あんな重たい百合漫画を入れようとしてもそれは無理があるだろう. 今になってそれが面白いと感じるようになったのなら, 君が自分の中に百合を受け入れる土壌を, 丁寧に, そして誠実に築き上げていった証左だよ」

 

友人はそう言って, そこで話を切り上げました. 

 

「あれはよい漫画だね?」

 

「ああ, あれはよい漫画だよ」

 

続けて, 友人は言いました. 

 

「いったん不要だと思った本を処分することが, いかに愚かしいことか分かるね. いつそれが再び価値を持つか分からないというのに……」

 

外はすっかり暗く, 昼に雪が降ったこともあり, ひどく寒いものでした. 

 

「……すまない. 忘れてくれ」

 

私と友人は別れました. 

 

友人はかつて, 喫緊のお金の必要のために, 自身の本を手放し, それでいくらかのお金を得ました. のちに金欠は解消され, 買い戻そうとしたとき, その本は既に入手困難になっていました. 

 

「ばかなことをした」

 

友人の落胆ぶりは, 見るに堪えないものがありました. 

 

私は, あのときの友人の, 取り返しのつかないことをしてしまったという絶望的な表情だけは, どうしても忘れられません.