先日、「2026年に入って本を100冊読んだので、2026年マイベスト100を作る」という題のブログ記事を書きました。
マイベスト3は
1位 『同時代ゲーム』大江健三郎
2位 『空想少女は悶絶中』おかもと(仮)
3位 『ムーミンパパ海へいく』トーベ・ヤンソン
となりました。
『同時代ゲーム』に関しては、日本の代表的作家である大江健三郎の作品ですし、『ムーミンパパ海へいく』も、広く知られているムーミンシリーズの作品なので、ここで詳しく感想を書く必要もないでしょう。そんなこなで、マイベスト3の中で明らかに知名度が低いと思われる『空想少女は悶絶中』の感想を書きます。
なお、2026年8月27日現在、ツイスタで「空想少女は悶絶中」で検索して最新のポストが2018年2月19日のもの、読書メーターで最新の感想が2019年7月7日のものなので、2026年にこの熱量で本書の感想を書くというだけで、それなりに価値があると思っています。おそらく。
基本情報
タイトル 『空想少女は悶絶中』
著者 おかもと(仮)
出版社 宝島文庫/宝島社
初版刊行日 2014年4月18日
ページ数 285

本書は短編集であり、表題作「空想少女は悶絶中」を含む5篇が収録されています。そして、本書の感想を書く上で重要な背景情報として、表題作「空想少女は悶絶中」はTV番組「世にも奇妙な物語」で映像化されています(「空想少女」2014年4月5日放送)。この放送日と、本書の初版刊行日を比較すると分かりますが、おそらく本書は、表題作が「世にも奇妙な物語」で映像化されるのに合わせて刊行された、「世にも奇妙な物語」ありきの短編集だと思われます。そんなことあるんだ……
ちなみに、表題作「空想少女は悶絶中」の初出は『5分で読める!ひと駅ストーリー 乗車編』(宝島社、2013年)です。最近、こういう本を「ドパガキ小説」と呼んでいるポストをツイスタでちょくちょく見ますが、短編集って長編小説にある"遊び"がない分、密度が高くて疲れるねんな……と思っています。
各短編の感想
「マジ半端ねぇリア充研究記録」
初出:『5分で読める!ひと駅ストーリー 夏の記憶 西口編』(宝島社、2013年)
「リア充爆発しろ!←本当に爆発します」をやりたかっただけの短編という感じ。そして「リア充爆発しろ!」って2026年では死語になったかナァ……と思いました。この短編の中で「リア充」は、ほぼ「ぱねえwww」だけで会話をする、言葉が通じない未開の部族のような描写のされ方をするのですが、2013年と2026年では「リア充」が指すものも大きく変わったのだと気づきました。実際、2013年の「リア充」が指すもの = 2026年の「ウェーイ系」「DQN」が指すものくらいの印象を受けました。
2013年も遠くなりにけり。
「『サンタクロースの冬』事件裁判の結果報告」
初出:『5分で読める!ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編』(宝島社、2013年)
おとぎ話が現実で起こったら?系統の短編で、要するに、サンタクロースが住居侵入で逮捕され裁判にかけられる話です。最近はこういう話をとんと見なくなったけれど、となるとこれも2010年代の流行だったのでしょうか?
安易なロリコンネタが入っているのも、2010年代という感じで、奇妙な懐かしさを覚えます。
「空想少女は悶絶中」
初出:『5分で読める!ひと駅ストーリー 乗車編』(宝島社、2013年)
たった8ページの超短編で、内容は「電車で目の前に立ったお婆さんに席を譲るかどうか、脳内で妄想を繰り広げながら悩む女子高生」の話です。この空想少女の脳内では、彼女は戦国武将になりきっているのですが、妄想好きの女子高生(読書好き)が戦国武将好きってちょっとステレオタイプなオタク女子すぎないか?と思いました。「世にも奇妙な物語」で映像化された方では、能年玲奈が空想少女を演じているのですが、当時テレビで観たはず(それで本書を購入して、12年間積読していた)なのに、内容をほとんど覚えていません。
「空想少女は悶絶中 腐れ維新」
初出:書き下ろし
コテコテの、コッテコテの腐女子小説です。2010年代の学校には、クラスにひとりかふたりこういう女子がいて、『黒子のバスケ』のクリアファイルを使っていたことを、鮮明に思い出すことができました。内容は「BL本が蔓延した高校で、風紀委員が腐れ思想を撲滅すべく暗躍する」というもので、タイトルから察せられる通り、風紀委員 = 新撰組、腐れ思想を持った生徒 = 維新の志士なわけで、そんな純度100%の腐女子ワールドが展開されるのは、どこか痛快でもあります。それと同時に、BLを通じて絆を深める主人公たちの、等身大の友情小説として優れていて、2026年なら百合小説と形容されてもおかしくなかっただろうなと思います(百合の定義次第ですが、正確には「女性同士の絆」くらいが穏当な表現かな……)。
「新約 伝説兄妹!」
初出:『伝説兄妹!』(このライトノベルがすごい!文庫、2010年)を加筆修正・改題し収録
初出から分かる通り、本作はライトノベルです。元の『伝説兄妹!』は、第1回「このライトノベルがすごい!」大賞の特別賞を受賞した、著者の商業デビュー作のようです。内容は「冴えない主人公の前にある日突然、天使が現れて、妹として一緒に暮らし始めて、そんなこんなで楽しく過ごしていたら、なんか天使の正体を知る謎の女性が現れて、天使のせいで世界滅亡の危機に巻き込まれて……」という、いかにもなセカイ系の物語です。これを読んだとき、『君の名は。』『天気の子』「涼宮ハルヒ」シリーズなどなど、これまで触れてきたセカイ系作品の数々が走馬灯のように浮かんできたわけですが、それ以上に、『バカテス』『俺妹』『エロマンガ先生』『はがない』『妹さえいればいい。』『変猫』『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』『さくら荘』『のうコメ』など、2010年代前半のライトノベルのことが自然に思い出されました。そして、「ある日突然、目の前に妹が現れて同居生活が始まる」というのは、2010年代前半の全てのオタクの夢だったことを、どうしてこんな重要な事実をさえ忘れていたのだろう?と驚きに満ちた気持で諒解したのです。
余談ですが、「新約 伝説兄妹!」は、『空想少女は悶絶中』全285ページのうちの約210ページを占めるので、ほとんど「新約 伝説兄妹!」and more!な短編集になっています。
さらに余談ですが、加筆修正・改題前の『伝説兄妹!』の内容が気になったので、中古で(というか、中古でしか手に入りませんが)買ってきました。全3巻セットで490円でした。第1巻の内容を加筆修正・改題したものが「新約 伝説兄妹!」です。「新約 伝説兄妹!」の方には挿絵がついていないのですが、『伝説兄妹!』の方はちゃんと挿絵がついています。やっぱり、ライトノベルには挿絵が必要というか、小説に挿絵がついているのって、なんか素敵ですね。

総評
2010年代前半の空気感をここまで鮮やかに描き出した(描き出したというか、2010年代前半に書かれた話なのだから、当然と言えば当然なのですが)短編集を、私は他に読んだことがありません。正直なところ、この短編集を読んだだけで2010年代前半の日本について語ってしまっても、一向に問題ないだろう!とすら思いました。
小説に対して、「時代を経ても色褪せない名作」とか「〇〇年前の作品なのに、全く古臭さを感じない」というふうな賛辞が送られることがありますが、この短編集は、その対極に位置する、2010年代前半の日本を閉じ込めたような趣を感じます。特に「マジ半端ねぇリア充研究記録」に関しては、「リア充爆発しろ」という当時の流行語を知らない世代が読んだら、なんのこっちゃ理解できないでしょう。
そういうわけで、2010年代前半の雰囲気の中に、それから10年余りが過ぎた2026年の今になって身を置いてみるというのは、タイミングとしてはかなりよかったのではないかと思っています。
それはそれとして、2026年現在『空想少女は悶絶中』を新品で手にいれるのはほぼ不可能ですし、確認した限り電子書籍でも未配信なので、気軽に薦められる本ではないですね。メルカリを見たら、いちおう販売中の出品が3件ヒットしました。

おわりっ
Q. この本のどこが魅力?
A. 2010年代前半のにおいがムンムンするから
さよなら、2010年代前半。変な時代でした。