誠実な生活

実家の隣に葬儀屋がある

日記(2/14)

先日, ネットショッピングで注文した本が届きました. およそ15,000円分のうち, 半分が女性同士の恋愛ものの漫画や小説でした. 

 

いわゆる百合と呼ばれる系統の作品を, 中高生の頃はほとんど読んだことがなかった気がします. 当時はもっと, 男女間の恋愛を描いた古典的なものであったり, もしくは恋愛要素のほとんどないコメディものであったりを好んで読んでいました. 

 

読書とは, 一種の自傷行為に近いのかもしれません. 大学生が主人公の恋愛漫画を読むたびに, 過去にほんの一ヶ月だけ交際して, 絶望的な形で破局した元交際相手のことを思い出して胃の中のものを吐き出したくなります. これまでにニ, 三度ほど, 実際にトイレで吐き出しました. 

 

そんなことがあっても, 自傷行為が止まることはありません. いったい, なぜでしょうか?

 

お昼過ぎに, 友人が私の部屋を訪ねてきました. 友人もまた, 私とは異なる形で交際相手と悲劇的な破局を果たした人間でした. 

 

「最近, pixivの更新がないけれど, 今は何も書いていないのかい」

 

開口一番, 友人は尋ねました. 

 

「pixivの作品タグというものがあるのを知っているね?」

 

「もちろん」

 

「私は作者以外でも作品タグを追加できるように設定しているのだけれど, 以前投稿したssにタグが追加されたんだ. それは, 私の意図しないカップリングタグだったよ」

 

「それが不愉快だったということかい」

 

「いや, 不愉快さは特になくて, むしろ意外だと思ったよ. 私の書いた作品に, 私の意図しない解釈を与えられたわけだからね」

 

「それと作品の投稿が止まっていることに, なんの関係が?」

 

「問題は, そのカップリングタグが, よりにもよってメジャーカップリングのタグだったということだよ」

 

私がメジャーカップリングをほとんど書いてこなかったこと, まして, 特定のマイナーカップリングに固執していると捉えられても言い逃れできない数のマイナーカップリング作品を投稿してきたことは, 先日友人に指摘された通りでした. 

 

「メジャーカップリングだと何か問題でもあるのか」

 

「私はかつて, 信念なき逆張りは身を滅ぼすと言ったね?」

 

「ふむ. しかし, 君の逆張りには信念があるのではなかったか」

 

「そう. 私は信念を持って逆張りを決め込んでいた……そう, そのはずだったんだ. しかし, 今回の件を鑑みるに, 私の作品には, 私の意図しない形でメジャーカップリング要素が組み込まれていることになる. これがどういうことか分かるね?」

 

「……」

 

「私の逆張りに, 信念などなかったことになる. それはゆめゆめ許されないことだよ」

 

私の声は, 自分でも分かるほどにひどく震えていました. 

 

「……中学一年の頃, 男子はこぞってカッターシャツを出して, 制服のズボンを下げていたのを覚えているかい」

 

「ああ, 私も大勢に倣ったよ. 今にして思えば, 格好の悪いものだった」

 

「私はあのとき, むしろシャツをしっかり入れて, ズボンも行き過ぎというくらい上げて過ごしたものだよ. 思えば, あれが私の逆張り人生の始まりだった」

 

あれから, もうすぐ10年になります. 

 

「私の逆張り人生は, いったい何になったというのだろうね?」

 

私の問いかけに, 友人は真っすぐに私を見つめたまま, 唇を噛みしめていました.